『Works 191 「失われた30年」を検証する 社会×働く 何が変わり何が変わらなかったのか』
2025-09-02 16:55
P.13
小熊英二の記事を読んでいて、自分は⭐️明治期の動乱からの労働・雇用環境の立ち上がり・変化に興味があるのかも。
『名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち:「誰もが階段を上れる社会」の希望と葛藤|海老原嗣生/荻野進介』とか 『会社と社会の読書会|畑中章宏/若林恵/山下正太郎/工藤沙希』に通じる
2025-09-09 12:40
P.19
濱口桂一郎のジョブ型に水を差すというのが彗眼
2025-09-10 14:45
P.27
2025-09-11 02:27
P.35
曽山哲人のOKゴールの言語化
【引用】「実力主義型終身雇用」という言葉に代表されるように、同社の施策にはいわゆる日本型雇用の要素も含まれている。
2025-09-12 02:26
P.45
2025-09-13 05:44
読了
Works191号 - w_191.pdf
https://www.works-i.com/works/item/w_191.pdf
Highlights & Notes
たとえばその間、北欧諸国では一般財源によっ て全国民を社会保険の対象とし、中間層から転落 した人々が再び高い賃金の仕事に戻れるよう、手 厚い生活保障と教育訓練の機会が整備されまし た。日本の社会保障制度はビスマルク型といって 雇用関係に立脚し、職を持った労働者に手厚い仕 組みです。ドイツやオランダ、フランスといった 日本と同様の社会保障制度を持つ国々も、社会の 変化に伴い、雇用された人々以外にもリスキリン グの機会を提供するなど、積極的な労働市場政策 を導入しましたが、日本はそれに倣わなかった。 本来であれば、家計のリスクの高まりに対応して、 社会保障制度のアップグレードをすべきでした。
大久保幸夫(以下、大久保):30年前の1995年は、バ ブルが崩壊し、皆が自信を失っていた大きな転換 期でした。この30年間を振り返るにあたっては、 さらにその前の30年間を見ておく必要がありま す。というのも、その間に「雇用を守ることが正 義だ」という価値観が確立されたからです。オイ ルショックなどいくつかの経験を経て、「雇用を守 る=社員を大切にする」という暗黙の合意が、ほ ぼ完成に近い形にまで強化されたと考えています。 確かに長期継続雇用が社会の安定に貢献した部 分は大きかった。しかし雇用を守る代わりに、会 社の人事権が強化され、副作用も生み出しました。 たとえば、家庭の事情で転勤を拒否したら解雇さ れるなど、従業員のキャリアオーナーシップを完 全に奪うような慣行が長年続いてきました。
第2に、非正規雇用への依存です。中間的な賃金 の仕事を失い、より低賃金の仕事に流れた人々を、 非正規雇用という形で活用し始めた。私はこれを 「ダークサイドイノベーション」と呼んでいます。
大久保:終身雇用における正規雇用を守るために、 周辺的なシステムとして非正規雇用が作られまし た。最大の問題は、非正規雇用という区分を「身分」 として固定化してしまったことです。 サービス経済化すれば、柔軟な雇用形態が必要 になるのは理解できますが、本来は有期・無期の 違いだけで、社会保障も同じ内容に整備すべきで した。ところが非正規は給与が低くても構わない という論理で、正社員の下に新たな階層を作って しまったのです。正社員側にも負の影響がありま した。「どこでも、いつでも、何でも」という働き 方を背負ってしまったのです。
私は新卒採用自体には賛成ですが、人それぞれ 経験も能力も異なるのに、一斉にゼロリセットして 一律にスタートラインに立たせる、つまり同じ賃金 で同じような研修、同じようなレベルの仕事に入っ
ていくのは合理的ではないと考えています。一人ひ とりの伸びしろを引き上げるような、学生から社会 人への円滑な移行を促していくべきです。
多くの企業では、イノベーションそのものを作 り出す人材というよりも、そのイノベーションを 事業の形にして、社会の役に立つ形で展開し、利 益を生むメカニズムを作り出す人材が不足してい るように思います。企業のなかでは、そうした人 をいかに評価していくかが重要です。
河野:もともと労働力が非流動的な日本企業は、 革新的な財・サービスを生み出すプロダクトイノ ベーションよりも、そのプロセスを効率化し、広 範囲に展開するプロセスイノベーションが得意で した。その強みを発揮していければよいのですが、 この30年で収奪的システムに陥ってしまったため に、人材が育っていません。おっしゃるように、 イノベーションを形にして展開していくのは1人 でできるものではなく、皆の力が不可欠です。
けんすうの言う日本型オタク文化
一般的に「日本型雇用」は年功賃金や長期雇用、 新卒一括採用、定年制といった点から説明される ことが多い。 「しかし、これらはいってみれば経営者目線で見 たときの特徴です。私から見ると、日本型雇用の 最大の特徴は、人材評価の基準がないことです」
なぜこのような違いが生まれたのか。ドイツな どのヨーロッパ諸国では、産業革命後に職種別の 組織や労働運動が発展し、技能資格が政府公認と なり、公的な職業訓練へとつながっていった。基 本賃金などの処遇は産業別組合が産業別経営者団 体と交渉するため、同じ職種内で企業横断的な労 働市場が形成された。「日本ではこのような歴史 をたどりませんでした。日本型雇用の起源は、明 治期の官制に見出すことができます」 小熊氏によれば、明治初期には、近代教育を受 けた人材が圧倒的に不足しており、その少数の人 材を、国営部門のさまざまな職務に使い回す必要 があった。職務に対する賃金ではなく、俸給は官 等、つまり官吏の身分によって決められた。 「こうしたしくみは官庁や官営企業、軍隊に適用 され、民間企業にも受け継がれて、職務を限定せ ず、企業内等級で給与が決まる資格等級制度が発 達していきました」
現代文講義の実況中継にあった、漱石や鴎外の時代背景に通じる
とはいえ戦前までは企業のなかに身分差があ り、「社員」として身分が保証されたのは、一部 の上級職に限られていた。それが戦時中の総力戦 体制、戦後の民主化運動を通じて、高学歴のエリー ト社員、高卒のホワイトカラー、現場のブルーカ ラーなどすべての労働者の「社員の平等」が企業 内で実現された。 これによって生じた問題の1つは、「名目的に は全員が幹部候補生となるため、昇進が遅くなる こと」(小熊氏)だ。日本企業は欧米企業に比べ て昇進や選抜が遅いが、全社員を戦前の上級職と 同じように処遇した代償である。
『人事の成り立ち』にあった、誰もが階段を登れる社会。これを肯定的に捉えるか否かで景色が全然変わってくる
小熊氏は現代日本の生き方を、「大企業型」「地元 型」「残余型」の3つに分類している。「大企業型」 とは長期雇用、年功賃金が適用される大企業の正社 員、「地元型」は地元に留まり、農業や自営業、地 方公務員などとして地域に根ざして働いている人た ち、「残余型」は都市部の非正規労働者など、所得 が低く、地域につながりもないという人たちを指す。 「このうち『大企業型』は、全有業者の3割弱と推 計されます。1980年代からこの割合はほとんど変 わっていません。近年、非正規労働者が増えたとい われるのは、地元型に多い自営業者や家族従業者か らの転換と女性の労働力化によるもので、正社員の 数が減ったわけではないのです。3割弱の『大企業 型』とそれ以外という二重構造が、社会のしくみと して今も続いているのです」
『残業学』図表1-3では大企業型が減っているように解釈できるが?
「ところが、『高度専門能力活用型』については、 インタビューで尋ねても、あまり具体的なイメー ジは出てきませんでした。後になって考えてみる と、長期蓄積能力活用型と雇用柔軟型だけでは、 こちらが増えればあちらが減るというゼロサムに なってしまうので、それを中和するために3つの 分類を作ったのではないか。もちろん誰もそんな ことは言いませんし、実際にどこまで意識してい たかはわかりませんが、私はそのように推測して います」
また当初は、変則的な働き方をする人が 少なかったために「半紙に墨汁を一滴たら したように」目立ち、反発も出た。独身の 若手男性社員から「早く帰る人のせいで残 業が増える」と文句を言われたこともある
「ならば君はどうしたいのか」と聞くと数 日後、「仕事を覚えたいので、今のままで いい」という返事が来た。 「他人と自分を比べると『損をしている』と いう感覚が生まれますが、自分に『何をし たい』という軸があれば、その軸に照らし てどう働くべきかを考えるようになります」 多様な働き方をする人が増え、「半紙が多 様な色・形のドット模様になる」につれて反 発は減った。むしろ入社1年目に副業で起 業する、といった同僚を目の当たりにして 刺激を受け、「自分はどんな『ドット』にな りたいのか」と考える社員が増えたという。
「OSを変えるのは社会全体の問題であり、1社だ けでできることではありません。そもそも雇用契 約を規定した日本の民法は、ジョブ型の法制であ るにもかかわらず、裁判ではメンバーシップ型の 実態とのギャップを埋めるような判例が積み重ね られてきました。戦後80年かけて、日本の企業 と労働者が営々と積み上げてきたシステムが、そ う簡単に変わるとは私には思えません」
濱口氏によると、『新時代の「日本的経営」』が 目指したのは、企業の人件費負担が重くなるなか、 日本型雇用システムのメンバーを濃縮しようとす るものだった。具体的には、「長期蓄積能力活用型」 と称する正社員の数を減らし、年功ではなく成果 で厳しく評価することで、少数精鋭にしていくこ とを目指していた。
「当時は『成果主義』がもてはやされ、大変革の ように騒がれました。ところが遡れば、その20 年ほど前から日本企業は『能力主義』でやってき たはずです。結局、能力主義といいながら実態と しては年功的に運用されてきたから、次は成果で 見るといっているだけなのでしょう。いずれにし ても、人に値札をつけていることに変わりはあり ません。人への値札のつけ方を、潜在能力ややる 気の評価で見るのか、目標管理制度における仕事 の成果で見るのかの違いであって、基本的には同 一線上の話だと思っています」
「労働時間と勤務地の無限定性については、『こ のままでは困る』人が実際に現れているので、変 化の兆しが見えています。しかし職務内容につい ては、変えざるを得ないと思っている人がどれだ けいるのか。たとえば教育システムが従来のまま なのに、新卒で入ってきた人にジョブ型を適用し ようとしても、むしろ本人たちも困るのではない でしょうか。その意味で、ジョブの無限定性につ いては、今のところ変わる契機が見えません。結 局、1社でできるのは既存のOSの上にジョブ型 のアプリを走らせてみる程度のことです。私はそ れでもいいと思っています。ジョブ型という言葉 が独り歩きして、幻想がふくらまないように、水 をかけるのが自分の役割だと思っています」
成果主義でマイナーチェンジを繰り返した結 果、社内の理解を得づらくなった経験から、「制 度の不具合をもぐらたたきのように潰すのではな
く、組織の目指すビジョンをまず示し、それを達成 するためにジョブ型とポスティングが必要なのだと いう『ストーリー』を打ち出しました」。 ビジョンとストーリーを理解していれば、社員は 自ら、求められる人材に近づけるよう行動を起こし 始める。それこそが社員と企業が互いに自律し、か つお互いの力を信頼して動く「自律と信頼」の姿だ と平松氏は強調した。
同社の人事制度は今、ジョブによって報酬が決ま り、社員は手挙げで希望するポストに移るという 至ってシンプルな仕組みに落ち着いている。 「流動性の高い欧米の労働市場では、転職者がス ムーズに理解できるシンプルな人事制度にするため に、自ずとジョブ型に収斂していったと考えられま す。欧米企業と同じグローバルなフィールドで戦う 当社にとっても、ジョブ型は合理的な制度だと思い ます」
曽山氏も「初 職を正解にしたいというモチベーションを持って いることが、新卒ならではのよさ」だと語った。
曽山氏はまずそれぞれの制度に ついて、何を達成できれば成功なのかという「OKゴー ル」を設定した。たとえばキャリチャレは従来「自由 に異動できる」というメリットばかりが強調されてい たが、離職予防と多様なキャリアの推進という「OK ゴール」を前面に押し出すことで、次第に社員の理解 を得られるようになった。
サイバーエージェントは「スペック重視」の採用 への反省から、「素直で、いい人」という人間性重 視の採用に舵を切った。「この基準では『金太郎飴 のように同質性が高まるのでは』と考える人もいる でしょうが、実際には『素直で、いい人』には、た とえば外交性の高い人もいれば無口な人もいる、と いうように性格も強みも保有するスキルもさまざま で、むしろ多様な人材を採用しやすくなりました」 ただこの基準は、同社のビジョンに最も適した人 材の表現であり、他社で機能するとは限らないとい う。「当社が『21世紀を代表する会社』になるため には、今後もどんどん会社の姿を変えていかなけれ ばいけません。このため社員にも、従順さではなく、 好奇心を持って新たな変化に対応するという意味で の『素直さ』が必要なのです」
また「実力主義型終身雇用」という人事戦略も明 確化した。「当社の社員は 8割が20 〜30代と若く、 多くは年功より実力で評価されることを望んでいま す。一方で長期雇用が会社への信頼感、安心感を醸 成するメリットも大きいため、『一緒に戦ってくれ る人を守る』ことも重視しました」
長期雇用は、ともすれば意欲の低い社員がぶら下 がる「ぬるい職場」を作りかねない。予防策として 2011年に設けたのが「ミスマッチ制度」だ。半期 ごとに人材の下位3%のなかから、組織と価値観が 合わないといった「ミスマッチ人材」を絞り込み、 面談して本人の気持ちを聞いたうえで、職場に留ま るかどうかを決める。留まることを望む人には、部 署異動や面談継続などをサポートする。結果的に退 社を決断する人も7割程度いるという。 「活躍の場を得られないのは、その人にとっても不 幸です。ぶら下がりを防ぐだけでなく、その人によ りよい人生を送ってもらうことも考えて伴走します」
曽山氏自身、社員から「成果主義が強すぎる」と いう意見が出たため定性的なコンピテンシー評価を 入れたところ、「評価に納得がいかない」「評価しづ らい」など批判が殺到し、リリースの1週間後に全 社へのお詫びメールで撤回した経験がある。 「日本では、失敗に対して減点主義で臨む企業が 多い。年功的な人事制度からの脱却を目指して採 用や人事評価の基準を数値化、言語化するなかで、 感情のマネジメントが抜け落ちてしまいました」
【引用】「実力主義型終身雇用」という言葉に代表されるように、同社の施策にはいわゆる日本型雇用の要素も含まれている。
ただブルーカラーの割合が増えたとき、 生活を安定させるには最低賃金の引き上げ など政策的な措置も不可欠だ。働き手も「従 来の職業観の延長線上でキャリアを考える 時代は終わったことを認識し、本当にやり たいことは何かを突き詰めて考える必要が あります」。 小川さんの大学卒業時は人手不足が顕在 化し、就活では売り手市場といわれていた。 だが同級生の多くはリスクを嫌い、これま での価値観の延長線上の「勝ち組」を目指 し、大手金融機関などに就職していった。 「雇用の流動性を高めてキャリアを自己決 定する環境を作るとともに、『今選んだ職 業が20年、30年後も存在するという保証 はない』という将来像を若者に示して、ス キルや考え方を磨き続ける必要があるとい う危機意識を高めなければいけないと思い ます」
矢田:何かをやりたいという動機が あっても言語化できていない人が多 い。「やりたいことをやって」と言われ て、動ける人はほとんどいません。本 人のなかに眠っていた誇りや意義が、 ある出番をきっかけに立ち上がってく る。その“面(ツラ)が立つ”瞬間を捉 えることが、コミュニティナースの技 術の核になっています
矢田:父の死がきっかけでした。なぜ 医療専門職が多くいるのに、その人た ちは病院にいるだけで、私たちが生き ているまちのなかに関わる人がいない のか。構造に対して憤りを感じていま した。
日本の福祉や医療制度は、①市場を 形成するための税の再分配、②その上 に成り立つ専門職の存在、③法制度に よるルールの整備。この3つの仕組み によって、人々の行動や意識が形づく られてきたんです。それを踏まえ、コ ミュニティナースも同じ3つに挑戦す ればいいと考えました。
──株式会社として、CNCはどのよ うにマネタイズしているんですか。 矢田:自治体からの業務受託、民間企 業からの受託、そしてコミュニティナー スの研修事業の3つの柱があります。た だ、従来の医療制度のように国や自治 体の財源を活用しようとすると、目的 が医療費や介護保険料の削減など「旧 来の医療福祉から見た成果」に定義さ れがち。一方で現場が目指すことはそ れにとどまらず、一人ひとりの生きがい や活躍が相互扶助によって増えていく ような暮らしです。結果として費用の 削減につながったとしても、目的やプ ロセスが異なります。この実態を共有 し、長期的な視点かつオーナー的な立 場で取り組んでくれる「公益経営者」と 連携することに軸足を移しました。
──「公益経営者」とは、具体的にど のような方たちでしょうか。 矢田:地域を支える存在としての誇り と責任を持ち、経営判断の軸に“社会 的な意義”を据える経営者のことを、 私たちは「公益経営者」と呼んでいま す。地方で家業を継いだ方に多いので すが、重要なのは“何代目”かではなく、 “自らがこの地域の未来をつくる1人で ある”という覚悟と美意識を持ってい
ること。事業の利益だけでなく、人の 笑顔や地域の未来など目に見えない価 値にも投資し、それをイケてると思っ て力を貸してくれる経営者たちとの協 業が、全国に広がりつつあります。
1社だけが勝つのではなく、日本の 課題解決に向けた価値を集合知として 体現し、その関係性自体が「日本人ら しい美しさ」だと感じてもらえるよう な世界をつくりたいと思っています。
矢田:はい。ラストシーンで、空に飛び 立つラピュタの中心で光り輝くエメラ ルドグリーンの飛行石がありますよね。 CNCという組織が飛行石のように存 在し、「CNCがいるから、私たちも飛 べた」と思ってもらえるような状態を 目指しています。自分たちだけでこの モデル全体を展開するのではなく、純 度の高い技術・哲学・システムを保ち ながら、ほかの企業や地域が社会的な 事業を展開するきっかけになりたい。
鈴木:自律神経の研究は昔からありましたが、 メディアで騒がれるようになったのは最近のこ とで、おそらく日本だけだと思います。 そもそも神経は情報を伝えるもので、全身に 巡らされています。大きく中枢神経と末梢神経 に分かれ、中枢神経とは脳と脊髄を指し、脳か ら出ている脳神経と脊髄から出ている脊髄神経 をあわせて末梢神経と呼びます【右ページ図】。 梅崎:つまり、各器官から伝えられる情報を処 理して全身に指令を送るのが中枢神経で、中枢 神経と全身の各器官をつないで情報伝達してい るのが末梢神経であると。そして自律神経は、 末梢神経に分類されますね。
鈴木:そうです。末梢神経には、もう1つ分類 の仕方があって、外部環境(体の外側)に向かっ て働きかける神経が体性神経、内部環境(体の 内側)に向かって働きかける神経が自律神経で す。体性神経とは、具体的には運動神経と感覚 神経のことです。 梅崎:これは比較的わかりやすい。手や足を動 かすのが運動神経で、見たり聞いたりした感覚 を伝えるのが感覚神経です。
鈴木:はい。体性神経とつながっている手や足 の筋肉を骨格筋といいますが、骨格筋は自分の 意思で自由に動かすことができます。これに対 して、自律神経は心臓など内臓の筋肉とつな がっていて、基本的に意思には従いません。心 臓を速く動かそうとか、汗をかこうとか思って も、意識してできませんよね。 梅崎:自律的に動くから「自律神経」ですね。
鈴木:求心性神経は内臓の感覚を脳に伝える神 経です。遠心性神経は内臓を動かす神経で、交 感神経と副交感神経のことです。求心性神経と 遠心性神経は一緒に走っているので1本に見え るのですが、逆向きに情報伝達しています。 内臓を動かす神経の働きがわかってきて、「自 律神経」と名付けられたのは1898年ですが、当 時はまだ求心性神経についてわかっていません でした。そのため、今でも自律神経といえば遠 心性神経である交感神経と副交感神経を指す場 合があります。
梅崎:アメリカの生理学者ウォルター・キャノ ンは、自律神経の役割は「内部環境の恒常性の 維持」にあると説明し、それを「ホメオスタシ ス」と名付けました。このホメオスタシスとい う概念は非常に重要だと思います。 鈴木:「内部環境の恒常性の維持」は、生きて いくうえで内部環境が一定に保たれなければな らないということで、19世紀にフランスのクロー ド・ベルナールが提唱した生理学の基本的な概 念です。それをキャノンがホメオスタシスと言 い換えました。ギリシャ語で「ホメオ」は「似 たような」、「スタシス」は「安定な状態」を意 味し、私たちの体のなかの環境が、一定の範囲
内にゆらぎを持って保たれていることを表現し ています。体温であれば朝は低く、夕方にかけ て上がり、夜に向けて下がっていく。血糖値や 血圧も常に同じではなく、食事や運動、ストレ スの影響によって変動します。
梅崎:ただ、このリズムには個人差がある。閾 値を大きく超えるとまずいが、その人の最適な リズムはその人のものでしかなく、標準に合わ せればよいというものでもありません。 鈴木:だから数値だけを見て、一概に高血圧と か低血圧とかと判断できません。病気かどうか の分かれ目は、WHO(世界保健機関)などが 定める基準によるので、その範囲が狭まれば病 気の人が増える。基準は時代によっても変わり、 昔は正常だったものが、今は病気とされること もあります。 私の祖父はずっと血圧が高かったものの、80 歳まで元気に生きてきました。病気の治療をし たときに血圧を下げたら、逆に調子が悪くなっ てしまいました。最近は特に高齢者については、 少し基準を緩めてもよいのではないかという議 論もあります。本来、自分の体は自分がいちば
梅崎:各診療科を受診しても特に問題が見つか らないのに、めまいや動悸、肩こりや不眠など、 何となく調子が悪い状態が続くことは実際にあ ります。私たちはそれを「自律神経失調症」で はないかと考えますが、実は自律神経失調症に 明確な定義はないそうですね。 鈴木:1960年代に自律神経失調症と名付けられ ましたが、その後、自律神経に異常がないもの も多いことがわかり、学術的には「不定愁訴」 と言うようになりました。欧米では「医学的に 説明がつかない症状(medically unexplained symptoms:MUS)」という用語も使われます。 ただ、不定愁訴と言われるよりも受け入れやす いのか、何となく自律神経失調症という言葉が 残ってしまいました。 検査して身体的な異常が見つからなければ心 因性のものと捉えられることが多いようです。 ストレスや生活習慣の乱れが誘因となっている ので、ストレスを取り除いたり、生活習慣を改 善したりすることが必要になります。
食生活も大事です。腸のなかには腸管神経系 という独自の自律神経系があり、「第3の自律神 経」と呼ばれています。食べ物次第で身体に棲 みついている細菌が変わり、それによって身体 に不調が生じることがわかってきたので、少し ずついろいろな食材を食べて、腸内細菌の多様 性を保つようにしましょう。
北欧の企業文化で 驚 い た こ と の1 つが、育児休業中の従業 員の業務を補うために、 期間限定で代替要員を 雇用する、という慣習だ。代替要員を採用すれば、 育休中に同僚に仕事のしわ寄せがいくこともな いし、本人にも戻る場所があるという安心感が 生まれて、気がねなく育休が取れる、というわ けだ。最近では、財務大臣(男性)が育休を取る 間、ほかの議員が大臣代理を務めていたが、こ ういう仕組みが一般的に受け入れられている。 試しにデンマークの求人サイトで「育休代替 要員」と検索すると、幼稚園の保育士から公益 団体の弁護士まで、100以上のポジションがず らっと並ぶ。雇用期間は約1年~1年半なので、 そんな短期間のポジションに応募する人がいる のか、と不思議に思われるかもしれない。だが、 実はこれ、若い世代にとっては、キャリアをス タートさせるチャンスとも捉えられている。
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#2025/09/13
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